スーパーダッシュ新刊とか

 新人さんが三作と新シリーズが一作。いつもどおり新人さん優先ということで。

黄色い花の紅 (スーパーダッシュ文庫)

黄色い花の紅 (スーパーダッシュ文庫)

 大賞受賞作。Webでの感想では、口をそろえるように他レーベルとは毛色が異なると書かれているが、たしかにそう思う。
 むしろトクマedgeとかそちらのほうなのでは?
 その辺は置いておくとして、一人の少女が自分の足で歩み始めるという自立話。それがなぜ銃で戦うことになるのか?というのは本編を読んでいただくとして、主人公の心情を細やかに追いかけていくのが巧くて好感がもてる。サブキャラや敵役などについてもキャラを立てるのが巧い。特に敵役については台詞も心情描写もほとんどなく、描写だけでモンスターっぷりを演出していたのが非常に巧くて良かった。
 また銃器に関する薀蓄が多いのも特徴。まぁ、感じとしては「日本のガンオタク」程度だけれども、素人にもわかりやすく書こうと努力している点がいい。ガンアクションについても作者が楽しんで書いているのか、テンポがよくいい感じの描写。
 この辺はあれか。榊一郎深見真両氏の追走者*1を目指しているんだろうか?
 ただ少し難点を言えば、全体的な雰囲気が大人しめな感じがある。描写やストーリーなどは派手なんだけど、盛り上がり部分がいまひとつ上がりきっていないように感じられた。また例年の新人さんにはある「飛び抜けた一点」がないのが個人的には残念。
でも、文章などはまだまだ良くなりそうだし、キャラ作りなどもよい感じなので早く次作が読みたい新人さんである。

 SD文庫新人賞佳作。わりと不思議世界系な物語だった。
 最後のオチへの伏線がやや弱いと思うけど、それ以外にはひどい欠点が見当たらない良作。ちょっと面白かったのはライトノベルとしては珍しく作中における時間の流れがわりと早いこと。高校入学の四月から始まって、終わりは卒業式のシーズンだから約一年を使って物語が進行している。その長さを感じないのは単に書いていないだけだけど。
 それだけの時間が流れているので、登場キャラたちの心情の動きがいくらか違和感がある。単に作中時間が飛ぶのが原因であるのだけれども、せめて主人公については心情などをもう少し細やかに書いてもよかったと思うんだよね。ちょっともったいない。

 作中の薀蓄がなかなか面白かった。製菓関連の用語が頻繁に使われているのはライトノベルでも珍しいというより、初じゃないだろうか?
(以下作品のネタバレあり)


 さぁ、ここで劇中の剣戟について少々ツッコミ。
剣道などでは竹刀の握り方について、右手と左手の握りこぶしを少々離して持つように指導されるというのは経験者ならば誰でも知っていると思う。
 その持ち方であると手首を動かしやすく、竹刀を自在に振れると普通は説明されている。実際に振ってみればわかるが、離して握るほうが振りやすく操りやすいのは事実。
 さて。劇中でとある人物が握り手を完全に触れさせる持ち方をしている。
 たしかに普通の剣道部員が見たら、そりゃ怒るかバカにするかのどちらかだろう。
 ところが、古流剣術をかじったことのある人の中には、そういった持ち方をする技・流派があることを文献などで見たことがあるかもしれない。
 つまり作者のまったくの創作というわけではないのだ。
 ただその説明については少々補則が必要。
 作者は剣速を上げるためにと説明しているが、それでは剣術としては足りていない。野球のバットやゴルフのスイングにおけるヘッドスピードを上げるという意味ではたしかに有効であるのだが、剣術の場合はただ剣速を上げただけでは斬ることが出来ない。
 日本刀でモノを斬る場合は、刃面を切断する物体に正確に垂直に立て(刃筋を立てるという)、刃を引く動作が必要であり、その際に剣が描く軌道は楕円軌道なのだ。
 バットやゴルフのスイングではヘッドスピードが最速となる場合は円軌道であり、日本刀の最適斬撃曲線である楕円軌道にはならないのだ。
 つまり最速を求めた場合、斬撃ではなく単に打撃になるだけである。
 だがしかし、一部の古流剣術においてはその欠点を克服した技が伝えられている。
 それは体裁きによって剣の軌道を強制的に楕円軌道にするという技術である。
 つまり剣を振るうと同時に踏み込みまたは後退することによって、剣に楕円軌道をとらせるようにしているわけだが、これを実践できる人間はたぶんそうはいない。
 わかってたって身体をその通りに動かすには並々ならぬ修練が必要であり、結果として扱える人は少なくなり廃れた古い技術というわけである。
 そんなわけで劇中の山田君はかなりすごい使い手というわけなのでした。
 ところで。最速の剣打というならば片手斬りが最も速いという突っ込みは内緒の方向で。あと山田家も左手は添えるだけの変則片手斬りを秘技としていたという説があることも秘密だw

*1:後継者というとなんかもう引退しているみたいなので追走者