熾天使たちの5分後 (富士見ミステリー文庫)〜設定考察

文献:

熾天使たちの5分後 (富士見ミステリー文庫)

熾天使たちの5分後 (富士見ミステリー文庫)

熾天使たちの5分後 短編
ドラゴンマガジン増刊 ファンタジアバトルロイヤルAUTUMN2005掲載)



 最近お気に入りの作品である熾天使たちの5分後 (富士見ミステリー文庫)の設定をまとめて少し考察してみました。
作品のネタバレを含むので注意してください。


セラフィムについて

  • <戦場の無人化>を目的に蒔菱重工の開発した生体兵器。
  • 国産型はI型〜VI型まで65535機製造。
  • 少なくとも普通・防衛医官・特化・施設の4タイプがある。
  • 一般市民に対する威圧感抑制のため、外見を14〜15才くらいの少女に設定。ただし、テクスチャーと呼ばれる外見設定が豊富にある。
  • 自立稼動も可能だが、人間の命令には絶対服従する。(マインドコントロールされている)
  • 背中に三対六枚の翼を収納し、カスタムパーツの増設などで陸上のみならず空域・海域を問わない戦闘行動が可能。
  • 人間の使用する武器が流用できるほか"トリスアギオン"と呼ばれる汎用アサルトシステムが内蔵されている。トリスアギオンとは粒子状に見える蛋白質であり機械であり各種元素の生成装置である"何か"。一粒一粒がセラフィムの脳とリンクしており、脳内で描いた設計図通りのものを構築できる。
  • モーション・インパルス・レスポンスと呼ばれる身体制御データを衛星よりダウンロードすることにより、経験豊富な特殊部隊と同等以上の戦闘動作をすることが可能。
  • 国産型の特徴は14歳前後の外見(例外あり)と深紅の髪。右側肩部から前腕部にかけてモデル名とシリアルナンバーが刻印されている。
  • 背中には翅痕と呼ばれる刻印がある。(翼を格納するためのものと思われる)
  • ロールアウトまで7年前後の育成期間が必要。また育成期間後には外見は変化しなくなる。
  • 内部構造はブラックボックス化されている。
  • 国産機については感情は完全には除去されていない。
  • 破壊時に前五分間のメモリー(五感・感情・思考などの記録)を送信する機能が備わっている。爆弾で全身を破壊されても送信できるほど頑強な機能

 作中の時代設定は21世紀前半、おそらく2030年前後。そのころの技術水準として考えてもセラフィムの性能はほとんどオーバーテクノロジーの領域に入っている。また内部構造などは完全にブラックボックス化されている上に、トリスアギオンという特殊粒子?に至っては物理法則を逸脱している感がある。
 また特に気になるのが、記憶転送機能。データ保管についても外部記憶装置ではなく、わざわざ専用のセラフィムに蓄積させていることから、その送信と受信・データ保管については重要視されていることがわかる。
 この機能については当初からの計画ではないらしいことがプロトタイプ・セラフィムの性能から推測できる。その一方で初号機から送信機能は搭載されている*1上に、短編登場人物の言葉*2から"プロジェクト"として計画されていたものであったらしいという奇妙な不一致点がある。

作品内年表

熾天使たちの5分後」短編版

ドラゴンマガジン増刊 ファンタジアバトルロイヤルAUTUMN2005掲載)

時期不明?:"セラフィム"プロトタイプ「佳撫」が製作される
約13年前?:"セラフィム"製造開始
約6年前:"セラフィム"初号機「壱果」ロールアウト
現在:国連平和維持部隊へのセラフィム初派遣を控えて最終調整のため、"セラフィム"先遣部隊30機が蒔菱重工多香宮事業所を訪問

熾天使たちの5分後 (富士見ミステリー文庫)」本編版(富士見ミステリー文庫2005年11月発売)

約30数年前:"セラフィム"プロトタイプ「佳撫」が製作される
18年前:国産セラフィムの生産が一時停止される。
10年前:蒔菱重工のセラフィム生産プラント12箇所が閉鎖される。
約4年前:主人公「春幡知路」と「佳撫」が出会う。(主人公小学4年生の夏)
約3年前:蒔菱重工多香宮事業所のセラフィム関連部署が東京本社に異動
現在:「春幡知路」と「御守通夜」が出会う。(主人公中学2年生4月)

国産セラフィムの製造期間

  1. セラフィム1機のロールアウトまでは7年の育成機関が必要(短編より)
  2. 「壱果」のロールアウトは約6年前(短編より)
  3. よって短編開始時点から約13年前にI型が製造開始
  4. 短編開始時点ではV型の育成が2年目(ロールアウトまで残り約5年)
  5. 13年間で5モデルが開発されているので、モデルチェンジはおそらく3年に1度。
  6. 従ってVI型の発表は短編開始時点より1年後の可能性が高い。

 以上から国産セラフィムの製造期間は最低でも約22年間と推測できる。
主力兵器の製造期間としては短いが、逆にかなり早いサイクルでのモデルチェンジを繰り返していたことが判る。また短編開始時点で稼動実績(実戦)がないにもかかわらず、既にV型にまでモデルチェンジされている。
 また短編版における春幡聖介や佳撫の言動から、蒔菱重工では稼動実績よりも"死の蒐集"を重要視している点が見受けられる。そのためセラフィム開発には別の目的があった可能性がある。

 

短編と本編(主人公「知路」と「佳撫」が出会う)までの経過時間

上記の製造期間(約22年間)における項目のほかに
1."天使"が自分の年齢について「とっくに30を過ぎている」と話している。
 40に近ければそう言うであろうし、30才前後でも「とっくに〜」という言葉は使わないだろう。従って31歳以上とし、多少の幅を見ても製造後35年以上ということはないと思われる。
2."セラフィム"の生産中止は本編での"出会い"から約14年前

 確定していない数字がいくつかあるが、短編と本編までの経過時間は上記項目から最低でも約19年間と推測できる。
ということは主人公の叔父は40代半ばということに。…そうは見えないなぁw

用語の語源

 使われている用語で気になったものについて語源を調べてみた。

熾天使セラフィム-Seraphim)

出展:<戦場の無人化>を目的に蒔菱重工の開発した生体兵器の名称
語源:天使の最上位階級
 六世紀初頭にディオニュシオスが記した「天上位階論」によると天使は三位階・九層に分類され、熾天使はその第一階層の最上位にあたる。すなわち最も「神」に近しい存在で、その名称はそれらが神への愛の炎をで照り輝いていることに由来するものであるとされる。
 イザヤ書によればその姿は一つの人面と三対六枚の翼を持つ成年男子とされる。
またトリスアギオンを歌いながら神の座の周囲を飛び回る、トリスアギオンの刻まれた炎の剣を持ちて神の敵を撃ち滅ぼすとも。

トリスアギオン(聖三讃詞または聖三祝文-Tris Agion)

出展:セラフィムに内蔵されている汎用アサルトシテムの名称
語源:聖性または祝福を表すために文句を三度繰り返すことを意味するラテン語
または神を称える三聖頌(聖句)を指すことも。
 天使の詠う三聖頌(聖句)「聖なるかな聖なるかな聖なるかな、昔いまし、今いまし、後きたりたもう、主たる全能の神」などが有名。

サンクトゥス(SANCTUS)

出展:本編で御守通夜の持つ不細工なぬいぐるみ
語源:ラテン語で「神聖な」を意味する語句。賛美歌などでは上記トリスアギオン形式で三唱される。また賛美歌の一形式や三聖頌(聖句)そのものを指すこともあるらしい。…ややこしい。

パンテオン(Pantheon)

出展:セラフィムのみで編成された自衛隊の部隊名
語源:ギリシャ語で「全ての神々」を意味する語。転じてすべての神々を祀る神殿-万神殿という意味もある。
 ギリシャ神話やローマ神話のような多神教で使われる一方で、一神教であるキリスト教などではその役割を失っている。またルネサンス期以降では、宗教より切り離されて偉人を奉る建造物のことも意味するようになっている。

メメント(Memento?)

出展:セラフィムたちの最後の五分間のことを蒔菱重工の人間はそう呼んでいる。
語源:記憶・形見を意味する英語?。
あるいはキリスト教における「Memento mori」=「自分が(いつか)必ず死ぬことを忘れるな」というラテン語の警句。使われている用語の多くは宗教用語なので、ラテン語からの引用の可能性が高い。

蒔菜大学(まきなだいがく)

多香宮町にある大学。主人公の父親がかつて勤務していた。
おそらくラテン語の「Deus ex machina」=「機械仕掛けの神」が語源と思われる。

*1:短編版で春幡聖介が言及している

*2:同じく短編版で春幡聖介の言葉に「いよいよプロジェクトが始まる」云々というものがある